『友達が死んだ話』

作品

掲載日 2024/11/26

読了目安(5分)

注意事項 ※残酷な描写があります

【あらすじ】

通り魔に友人を殺された少女が、その突然の現実を受け入れられず、死について考えていく独白のような短い話。

『友達が死んだ話』 「一緒にいた子は、助からなかったわ」  七日間の昏睡状態から目覚めた私が、最初に聞いた言葉がそれだった。  通り魔に刺されて、なんとか一命を取り留めた私は病院のベットで色々な管に囲まれながら、眠っていた一週間のことを話す姉を見ていた。 「もう、葬儀も終わって、私が代わりに行って来たけれど……」 「あなたもこのまま目が覚めないかと思った……」 「傷痕は残ってしまうそうなのだけど、でも出来るだけ目立たないようにしてくださるそうよ、腕のいいお医者様なのですって」  つらつらと、そんなことを話されて、どうでも良いのにと、私は思ったような気がする。  そんなことより、死んでしまった友達が、本当に死んだのかが不思議だった。  あまりにも、実感が無さ過ぎて、本当は私と違う部屋で入院しているのじゃないだろうかと思ったほどに、理解が出来なかった。  だって、あの子が死んだ?  死んだってなに?  悲しいとか、寂しいとか、そういうのはよく分からなかった。  暫くして私は退院し、友達の墓参りに行った。けれども私は、それでも実感がわかなくて、ただ墓の前で線香をあげて手を合わせた。こんな儀式になんの意味があるのだろうと思った。死人が本当に煙を食って喜ぶとも思えないし、ただ生きている側の自己満足に過ぎない行為じゃないか、と。  結局、死んだという事実を未だ理解できないまま、私は再び学校へ通いだす。  時間は待ってくれない。  学校へ行くと、机の上に花がある席が一つ。そういえば、クラスメイトが死ぬとこういう風になるんだったな、と他人事のように思い。それがあの子の場所だと気づくのに少し時間がかかった。  そのまま数日、数週間、数か月、学校へ通ったが、結論から言えば私はやっぱり分からなかったのだろう。  あの子は今日も休んでいる。もう話したいことが沢山たまってしまった。だというのにまだそれらが話せない。いつになったら学校に来るのだろう。  あぁ、そうか、もう二度と来ないのか。  そんなことを何度も、何度も、何度も、繰り返して、  もしも、私がもっと早く目覚めて、葬式に出ていたらもう少し違っただろうか、遺体を見てれば、感じただろうか、骨を見てれば、あの子の両親が嘆き悲しむ姿を見ていれば、私も、もっと───。  きっと、それでも実感なんて湧かないのだろうと、どこか納得して、それならあの子の代わりに死ねば良かっただろうか、と思った。  「でもそれは、ちょっと嫌だなぁ」  ぽつりと言って、ふと、目の前であの子が死んだ時のことを思い出した。  確か、あんまり血は飛んでなかったと思う。でもよく見たらあの子のお腹からあり得ないくらいの血が流れてて、これは駄目だと分かった。人間は血が足りなくなると死んでしまうと聞いたことがあったけれど、これは、これは明らかに、足りなくなってしまう、焦ってあの子のお腹を押さえたけれど、当然意味なんて全然なくて、じわじわと染み出したのと溢れ出した体液に、私は自分も結構な血を流しているのに気づかなかった。  そしたらあの子が言ったのだ。 「───あなたも、手当て、しないと、血が、出て、る」  言われて気づいて、慌てて自分の傷を押さえた。  じわじわと血が滲んでいたけれど、なんとなくこれくらいなら死なないだろうと思った。どれくらいの量が『駄目』なのか、よく知らないけれど、私は『大丈夫』で、友達が『駄目』なのは分かった。  それから私はなにを考えてたっけ?  もうあんまり覚えてないけど、あの子が最期に言った言葉ははっきり覚えてる。 「あなたじゃなくて、よかった」  あなたも酷い怪我だけれど、私は間もなく死ぬだろうから、死んでしまうのがあなたじゃなくて良かった。あなたが生きてて良かった。悲しまないで、わたしは、私の方が、死ぬ方で、良かったから。  そう言って、微笑みながら、死んだ。  私は汗と血でどろどろになりながら、死体の腹を押さえていた。  これ以上、血が足りなくならないように。 「私は、あの子とはもう、絶対に会えないと知っています」  自分の心臓が、静かに脈打っているのを感じていた。 「……二度と、あの子の声も、言葉も、聞けないし、あの子はもう、私の声に振り返って、私の言葉に頷いてくれません。だから、私はあなたを殺すのですよ。あの子が帰ってくるなら、あの子の声が、言葉が、聞こえるならば、私はきっと日々をつつましやかに、人を憎まず、殺意を持たず、ただ穏やかに生きたでしょう。復讐を遂げても、なにもうまれないと人は言いますが、違うんですよ。なにもないから、復讐をするんです。せいぜいあなたは、苦しんで死ねばいい。私はそれに喜びも感じないし、満たされもしませんが、それでいいんです。私は私のためだけに、あなたを殺すのだから」  あの子は死んで、私は生きた。だから私は明日も生きる。  何があっても、なにも無くても、死ぬまで生きる。  それが、唯一、あの子のためにすることかもしれない。  だって、私はあの時、思ってしまった。  『私じゃなくて、よかった』    【『友達が死んだ話』終】     

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