アコニの花束 07話

07話 変化

※小児加害など一部残酷な描写があります

あらすじ
近代ヨーロッパを舞台にした復讐劇。
ある事件により、車椅子での生活をおくることになった少女イネスは、その事件に関わった人間を探し出して自らの手で復讐することを願っている。唯一の味方である元奴隷のルイに協力してもらうが、なかなか犯人は見つからないまま、親の勧める実業家イーザック・フォーゲルの元へ嫁ぐことを決める
最初は互いに利害関係のみで成り立つ冷え切った夫婦関係だったが、ある出来事をきっかけに仲が深まり、やがて復讐へ協力してくれることになるが……。

【変化】 「ルイ、今日は天気も良いから庭でお昼を食べたいわ」 「かしこまりました。コックに伝えておきますね」  外に出るのが好きなイネスは、なにかと理由を付けては外で過ごす時間を楽しんでいた。  庭に並べられていく料理を嬉しそうに見ているイネスに。 「寒くは、ないのですか?」  声をかけたのは、イーザックだった。アダルフォはよく声をかけてくるが、イーザックは姿を現すこともほとんどないために、驚いた。 「平気よ。このくらいの木陰の方が、涼しくて心地いいわ」 「そう、ですか」 「……あなたも一緒にどう?」  今度は、ルイだけが驚いた。極力関わらないようにしていたのに、いったいなにがあって、わざわざ誘うような真似を……!? 「あ、いや……このあと仕事ですぐに出なくてはいけないんです。それで、しばらく家を空けることになりそうだから」  少し顔を見に来たのだ、と。そこまではどうにも気恥ずかしくて口には出来なかったが、イネスには伝わったようである。幸いにも、それは好意的に。 「そう、お仕事、頑張ってね」 「……あぁ。その、よければ、また誘ってださい」 「えぇ、喜んで」  何処までが社交辞令で、どこまでは本心なのか。ただ一つ言えるのは、ついこの間までは、わざわざ愛想よく振舞うことすらしない関係だったということであり、この変化には当事者である二人以外はひたすら驚かされることになった。 「何があったんですか! おじょ、じゃなくて奥様! あの男になにかされたんですか!? 弱みを握られたとか、なにか、僕のいない間に……! 奥様が望むのであれば、僕が金輪際関わることの無いようしっかりと───」 「ち、違うのよ。そういうんじゃないから心配しないで」  弱みを握られたと言うのは、あながち間違いではなかったが、別にばらされることを恐れて愛想よくしたわけではない。彼だって、私があそこで冷たくあしらったからといって、約束を破るような真似はしないだろう。 「その、なにも知らないうちから関わらないようにするのって、なんだか、もったいないかもって……思っただけなのよ」  そして、ルイがイネスを問い詰めている間、イーザックもまた、アダルフォからの質問攻めにあっていた。 「どういう心境の変化ですか!? いや、もちろん私は喜ばしいことだと思っておりますが、ついこの間まで時間の無駄だとおっしゃっていたのに、まさかわざわざ話しかけにいくとは、次はどうやってお二人の仲を進展させようかと考えあぐねておりましたのに、いつの間にあのような、互いに微笑みあうなどと、いえ、旦那様はあまり微笑んではいませんでしたが、奥様があのように親し気な表情をされるということは、決して悪くは思っていないはずです。一体何があったのですか!?」  興奮気味に分析してくる執事に困りながらも、多少は答えなければ余計にめんどくさそうだと、考える。 「お前が、休んでいた日に、少し話したんだ。それだけだから、その、向こうも気を使ったんだろう。深い意味はない」  もしかしたら、秘密をばらされることを恐れて、俺の機嫌を損ねないようにと微笑んでみせたのかもしれない。そうだ……もし、彼女がそれを気にしているなら、俺が話しかけたのは逆効果では……? いや、別に彼女とどうなりたいという訳でもないが、また、あんな怯えた目で見られるのは、なんとも、嫌な気分だ。  しかし、心配するなと言っても、今まで放ってきた男に言われても、説得力などないも同然。どうしたものか……。 「旦那様、もっと親しくなるために、まずは贈り物をするのはどうでしょう。私に考えがあります」 「……なんだ?」 「おそらく奥様は、お花もそうですが、高価なドレスや宝石にもあまり興味がないようです。しかし、本を読んだり、食事をするのはお好きなようです。なので、栞や、もしくは小さなナイフなんかも良いかもしれません」 「なるほど……? まて、なんでナイフなんだ!?」 「ナイフと申しましても、綺麗な模様の入った女性の喜びそうなものもありますから、あ、もしかして彼女がナイフで怪我をすることを心配してらっしゃるのですか? 気持ちは分かりますが、この間、お一人で果物を剥いているところをお手伝いさせていただきましたか、とても器用でしたよ」 「く、くだものを、剝いていただけなんだな?」 「はい……? なにか気になることでも?」 「いや、いい。……ナイフか」  確かに喜びそうではあるが、しかしよく使うものほど自分で選びたいと思うものではないだろうか。俺もよく万年筆やらインクやらをプレゼントされたが、気に入っているものが既にあるのに、プレゼントされても使い道に困る。 「まぁ、考えてみるよ」 「はい、いつでもご相談ください」

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