09話 エピローグ
※残酷な描写、性的な描写があります
あらすじ
荒廃した世界でいくつか残っている人の密集した都市、そこで行われる内紛、歪んだ秩序の下にある治安維持。
堤《つつみ》は、現在の上司である男に強引に連れられて高級娼館を訪れるが、男娼のランファを見た途端どうしていいか分からなくなり店から逃げ出してしまう。しかし、しばらくしてもランファのことが忘れられず今度は自分で娼館へ向かう。
性的な関係を持たずに繋がれていく二人の関係。謎めいた男娼ランファの正体とは、そして二人の関係の行方は如何。
【エピローグ】
「人間なのか、悪魔なのか、神様なのか」
「いずれでもあり、いずれでもない」
「生きているのか、死んでいるのか」
「それは紙の裏表と同じように、常に混在している」
「なぜ彼を殺したのか」
「可哀想だったから。約束だったから。そして感謝していたから」
「なぜ俺を殺さなかったのか」
「……分からない」
『なぜ、殺せなかったのか?』
「それだけが、お前が生きている間に唯一答えることの出来ない問だった。
愛していた。けれども、私にとって愛することと殺すことは等しかった。
あれほど迷いながら人に刃を向けたのは、後にも先にも、一度とてない。
頭では殺すことを選んでいた。心でも、お前の死に様を愛そうと誓った、
けれども、体は、悲鳴を上げていた。生きて欲しいと願って泣いていた」
「いまでも、お前を殺せなかった理由が分からない。けれども、この理由のない不可解な感情こそが、愛と呼ぶべきものかもしれないと思うから」
「──だから、逃げて、つつみ、私の仲間がお前を殺しに来る前に」
血を吐いて、涙を流して告げる彼を、どうして捨て置けるだろう。俺は殺されると分かっていても彼の仲間を呼びに行った。
すぐにそれは見つかって、俺は殺される前にと叫んだ。
「ランファが怪我をしたんだ! 助けてくれ!」
仮面の男は俺に見向きもしないで一目散にランファの元へ行き、即座に手当を始めた。どうやらただの暗殺集団ではないらしい。いや、それどころか、彼らはまるで──家族のようですらあった。
ランファの手当が終わるころにはもう一人の仮面の男が現れる。血まみれの拳に武器を持っていないところを見ると、彼が拳法家と見て間違い無さそうだ。その男は取り乱した様子はなく、手当されているランファを見た後、俺の方に向き直って尋ねてきた。
「君が撃ったのか?」
「え、いや、俺の、先輩が……もう、亡くなっているが」
「そうか。君は、撃たなかったのか」
「……撃った。でもかすりもしなかったんだ。……俺を殺す瞬間にランファは躊躇って、そのせいで撃たれた。俺のせいだ。俺を、殺してくれて構わない。でも、その前にどうかランファを一刻も早く病院へ連れて行ってくれ。俺は逃げやしないから」
拳法家の男は少し黙って考えてから、他の仲間に連絡を取り始めた。その後すぐにビルの下に車が停まり、ランファを抱えて彼らは去っていった。まるで俺は最初から存在していなかったかのように無視されて──。
「俺は死んだ」
「……じゃあ目の前にいるのは幽霊というわけか」
「そうだ。未練がましく恋人につきまとっている幽霊になったんだ。成仏するまでつきあってくれないか?」
「……仕方ない人。せっかく、逃してあげようと思ったのに」
悪魔のような、女神のような、朱の似合う魔性に魅入られて。彼はその一生を、蘭の花にささげる──。
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