テレパシー 2章09話

09話 感想

あらすじ
高校生になり、友達と部活動見学に向かった一信《かずのぶ》。弓道部に入ろうかと考えて、人だかりが無くなっても見学を続けていると優しげな部長から声をかけられ道具を見せてもらえることに。そこで遅れてやってきた三年生の先輩 高木(たかぎ)と出会う。
物憂げな表情で無口な高木は、冷たい印象を受けるが一信は次第に彼の優しさに気づいていく。弓を引く姿の美しさに惹かれ、高木自身へも惹かれていく一信。最初は困ったようにしていた高木も少しずつ心を開くようになり、明かされていく高木の危うさ。人間の醜さ、鬱屈を想いながらも、少年たちが愛とは何なのか考えていく物語。

【感想】 「そういうわけで、俺はその人を愛せなくなったんだ」  言い終わって一息つく間もなく高木は息を呑んだ。  あまりにも一信の思考が真っ赤に染まっていたためである。本当に『赤い』と思うほどそれは殺意に近い感情だった。  けれどもその心情からは想像もつかない穏やかな声で彼は感想を述べた。 「確かに僕がその人みたいになることはなさそうですね。心変わりをすること自体が罪なわけではありませんし、僕だって絶対にしないと断定する気はありませんが、それでもその人のことは許せません」  にこやかに言うので余計に凄みがあった。 「でも先輩のことが心配になっちゃいます。二股とかされても『両方愛してるんだ!』って本気で言われたら許しちゃったりしないですよね?」 「……別に俺が許す分にはいいだろ。俺は浮気しないから問題ない」  目をそらしながら答えたのだから本当に良いと思っているわけではなさそうだが、許してしまう事実は変わりない。それに、もう片方の二股されている相手にまで心を砕き始めるのは目に見えていて、そうして傷つくのは結局あなたじゃないか。 「まぁ僕がしなければいい話ですが。……いや、待ってください。もし今、他の人から本気で告白されたらどうするんです。だってほら、政さんとか……」 「馬鹿言うな。ちゃんと断るよ。お前と一緒にいる間は、お前に誠実でありたい」 「そうですか……。いや、でも、他に好きな人が出来たらちゃんと言ってほしい……」  あまりの寛容さに心配が尽きない。この人は単に優しいというよりも知りすぎた故に許しすぎるのだ。この人が他の誰かを好きになった時、僕のせいでその心を潰してしまわないかなんて考えたくもないことを本気で心配している。  好きな人がどこにも行ってほしくないと思いながら、幸せであってほしいと思う。それは時に矛盾してしまう。 「……出来ないよ。好きな人は、きっとこの先もずっと出来ない」  悲しい目をしてあなたは言った。 「そのかわり、永遠に一途でいられる」  理性的であること以外に、あなたが人を愛する方法はないのですか。その愛はきっと崇高ではあるけれど、僕の抱くそれより遥かに純粋で神聖なものだけれど。  僕には かの聖母が 幸福であったとは思われない 「出来ることなら、僕はあなたに……例え、相手が僕でなくても恋して欲しい」  それは残酷な願いかもしれなかった。あの人の性が、恋という錯覚を持たない存在ならどうすることも出来ない。けれども、気の狂うような馬鹿馬鹿しい情熱こそがあなたを救うような気もした。

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