01話 奇人少年の紹介
あらすじ
高校生になり、友達と部活動見学に向かった一信《かずのぶ》。弓道部に入ろうかと考えて、人だかりが無くなっても見学を続けていると優しげな部長から声をかけられ道具を見せてもらえることに。そこで遅れてやってきた三年生の先輩 高木(たかぎ)と出会う。
物憂げな表情で無口な高木は、冷たい印象を受けるが一信は次第に彼の優しさに気づいていく。弓を引く姿の美しさに惹かれ、高木自身へも惹かれていく一信。最初は困ったようにしていた高木も少しずつ心を開くようになり、明かされていく高木の危うさ。人間の醜さ、鬱屈を想いながらも、少年たちが愛とは何なのか考えていく物語。
『テレパシー』
青い煙がくゆっている
白く長い 骨ばった二本の指の間で それは燃える
気怠げに 煙を吐いて
長い前髪から ちらちらと覗く美しい相貌は
なにも見ていない なにも気づいていない
僕の浅ましい視線にすら──?
けれど 一瞬のうち 真っ黒い瞳は意思を宿し
僕を見留めて 微笑んだ
『一章』
【奇人少年の紹介】
今年十六歳を迎える少年は意気揚々と詰め襟の制服に袖を通し、鏡の前で一回転をしていた。
「母さん! 母さん! どう? 似合う⁉」
無邪気に尋ねる姿は、まだまだ幼い子供のようだった。
けれども彼の本来の学力を思えば、いま着ているのは黒い学ランではなく灰色のブレザーだっただろうと思うと母親は複雑な気持ちになりながら息子の制服を褒めてやった。
少年は色素の薄い癖のある髪に、明るい茶色の瞳があいまって可愛らしい顔立ちの子供だった。誰もが彼の外見だけを見て一様に褒めそやす。
けれども少年の性格は天使のようなそれではなかった。
一言で言うならば奇人
さわいだり暴れたりというわけでは無いのだが、いかんせん奇行が多かった。
ある時は母方の祖父が亡くなった葬式の真っ最中に突然歌いだし、母親を真っ青にさせたし、またある時は教室にある机を全て体育館倉庫に持っていってクラスメイトや教師の目を白黒させた。
少年の行動はそれほど他人に迷惑を強いる程ではなく、目的も明確ではないために誰もが困惑した。むしろ彼の奇行によって最も労力を費やしているのはそれを行う少年本人(心労をかけられる両親を除いて)であった。
他人に危害を加えるわけではなかったのでクラスメイトは遠巻きながら仲良くしてくれた。また整った顔が幸いして先輩や後輩からは可愛がられたり好意を寄せられることも多かった。
ただし、責任のある教師たちからはそういった温かい姿勢は取られず、低空飛行の内申点が彼の進学を狭めたことは当然の結果だろう。
本人はその事実をいたって気にしておらず、母親は頭を痛くしたがそれでも責めるようなことは言わなかった。父親に関しては非常に寛容で、少年が行った奇行を笑顔で聞いてやった。
「人を傷つけるようなことをしてはいけないよ」
その一言が、少年にとって唯一のルールである。
そうして、人目を気にしない精神と僅かながらの優しさを持ち合わせた奇行少年は高校という新たな遊び場を得ることとなった。
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