テレパシー 2章13話

13話 恋とは何ですか? 掲載

あらすじ
高校生になり、友達と部活動見学に向かった一信《かずのぶ》。弓道部に入ろうかと考えて、人だかりが無くなっても見学を続けていると優しげな部長から声をかけられ道具を見せてもらえることに。そこで遅れてやってきた三年生の先輩 高木(たかぎ)と出会う。
物憂げな表情で無口な高木は、冷たい印象を受けるが一信は次第に彼の優しさに気づいていく。弓を引く姿の美しさに惹かれ、高木自身へも惹かれていく一信。最初は困ったようにしていた高木も少しずつ心を開くようになり、明かされていく高木の危うさ。人間の醜さ、鬱屈を想いながらも、少年たちが愛とは何なのか考えていく物語。

【恋とは何ですか? 掲載】 回答者 弓道部部長 「君が僕に相談なんて珍しいね。それに内容が恋バナだなんて! 僕より君の方がよっぽど詳しそうだけど……。そうだな、弓道部にいるとやっぱりいくらか本物より格好良く見えるみたいでね。何度か告白されたことはあるけど付き合ってもたいてい振られてしまうんだよね。あぁ思い出したら悲しくなってきた。  理由はいつも似たようなことさ。優しすぎるって言われるんだ。そういうと聞こえはいいけどね、男らしくないってことなんだろうなぁ。  不思議だよね。人が人を好きになるって、いったい何を見て好きになったんだろう。僕はそんなに裏表もないと思うんだけど。最初は優しいところが好きだと言われて、最後は優しいところが好きじゃないって言われて終わるんだから。難しいよ。  結局、お互いが勝手に理想を持ってなんだか良いふうに見えてるだけで本当に相手のことなんて見えてないんじゃないかなぁと思うけどね。でも恋ってきっとそんなもんなんだよ。そうやって勘違いしてくうちに、見えてなかった部分も好きになれる相手に出会えたら幸せだと思うよ」 「いや、お礼なんて気にしないで。むしろ僕なんかに相談してくれてありがとう。  僕は少し、君のことを悩みなんて持たない特別な人間かと思っていたから……。弓道は続けるんだろう?  機会があれば、また君が弓を引くところを見せてくれよ。本当に、嫉妬するくらい綺麗だからね」 回答者 弓道部副部長 「なんだよ。別に暇だからいいけどさ、それより弓道は続けるんだよな?」 「……それならいいけど。つーかお前、受験だいじょぶなのかよ。勉強苦手なんだろ?」 「ふーん。まぁ小論とか俺は得意だし。面接もこの間先生に完璧だって言われたからな。今度見てやってもいいけど? そのかわりお前、アレだぞ。新しく通う弓道場教えろよ。 (もう部活じゃ見れないし。同じ大学に行ったってこいつは通ってくるわけでもなければ部活にも入らない。もう見れなくなるかと思った。あの完璧な姿を)  お前は弓道だけは凄いんだから、辞めるなんて言わなくて良かったよ。 (上手いやつほど呆気なく辞めてしまうなんてよくあることだ。こいつがそうだったら俺はどんな暴言を吐いてしまったか分からない。もしかしたら今まで何とか隠しているのを全部無駄にして泣きじゃくって懇願しかねない。あぁそんなことにならなくて良かった)  それで、相談って? (いつもしんどくたって平気だと突っぱねるこいつがそんなことを言うんだ。相当悩んでいるのだろう)」 「え? 恋って何か? は? 好きなやつが出来たのか? え? だ、誰だ⁉ 弓道部の女子か⁉ それとも他の、クラスのやつ⁉ それとも学外とか‼ (とにかくお前の練習の邪魔をしない女じゃないと! 弓道部なら大丈夫か? いやでも、あの女子たちがいったいどれだけこいつの凄さを分かってる? それに女子ってのはすぐ恋愛に気がいって、そのうちあたしと弓道どっちが大事なのなんて言い出したらどうしよう!)」 「え、弓道に理解のある人だって? それは本当か? (みんな最初はそう言うんだぞ。こいつは弓を持ってる時以外はぼんやりしてるからな。俺がもっとしっかり見とけばよかった。いつの間に好きなやつなんて出来たんだか……)」 「なんだと。このまえ一緒に弓道場に行った? (クソ。だがまぁ相手もそこそこ引けるなら、こいつの凄さは分かるはずだ)  つーか。お前が弓道場に行こうって言ったのか⁉ (部活でもクラスでもロクに話さないくせに自分から誘うなんてことが……!)」 「そうか。他にも、一緒に……。 (なんだ。めちゃめちゃ好きなんじゃねーか。いいなぁそいつ。好きなだけ近くで弓を引くとこを見れて、教えてもらえたりするんだろ。俺だってお前と同じ歳じゃなきゃ教われたのに) (そいつは自分が特別な扱いを受けてることに気づいてんのか? お前に話しかけてもらって、デートみたいなことまでして、こいつの隣にいても睨まれないですむなんて、そんな場所にいられるのがどんだけ難しいことか、分かってんのか? 俺だって、男じゃなかったら)  今度、その子紹介しろよ。(中途半端な女だったら『それは恋じゃない』って言ってやる。だってそれだけあからさまに特別あつかいしておきながら、お前はまだ自覚がないんだろ? 好都合じゃないか)  焦って告白したりすんなよ。 (お前は振るのが下手そうだからな)  恋愛は慎重にいかないと。好きな子に嫌われたくないだろ?  え? 俺の恋愛経験? うるさいな。あるに決まってるだろ。だから俺のアドバイスを聞いとけば間違いない。 (経験なんてあるわけないだろ。お前の射より心奪われるものに出会ったことがないんだ。女の裸よりお前の肢体を見ていたい)  なんだ、相談はもう良いのか? 参考になったって? そうか、とにかく慎重にな! 必ず俺に紹介しろよ‼」 質問者 弓道部三年 女子 「ちょっと高木くん、話があるんだけど。このあいだ休日に弓道部の後輩と一緒にいなかった? 一年の……ほら、あなたにしつこく話しかけてた子」 「やっぱり見間違いじゃないよね? 呆れた。あの子、部活以外でも付きまとってるの?(ただでさえ話しかけられるのも嫌いなのに、あんな煩くて空気の読めない奴に構われたらストレスでしょうに)高木くんも嫌ならちゃんと言わないと、放っておくと付け上がるよ!(部活中もずっと高木くんの休憩を邪魔して、無視すればいいのに、相手にするから調子に乗ってそんなことになってるんでしょ)言いづらいなら私があの一年に注意してあげようか?」 「……は? あなたから誘って遊びに行ったの?(信じられない。なんであんな奴を……)いや、高木くんが良いなら……別に私も、何も言わないけど。(嘘でしょ⁉)本当に仲がいいの?」 「そう……。ごめんなさい。余計なこと言って。  聞きたかったのはそれだけだから。つきまとわれて困ってるんじゃないならいいの。じゃあまた、来週の部活で会いましょ」 回答者 弓道部三年 女子 「ちょっと高木くん! あ、あなたこの間──!」 「ご、ごめんなさい。つい声が大きく……。高木くんこの間、例の一年と水族館にいなかった? なんだか随分、仲良さそうに……」 (友達と言うには近い距離感──あぁ、なるほど、その微笑みは) 「別に、誰にも言わないよ。噂話をするほど暇じゃないし(そんな友達いないし)ちょっとびっくりして、気になっちゃっただけ。(あなたもそんな風に笑えるんだね)お幸せに」  彼が恋をしていることを知って、しばらくしてから私は自分がショックを受けていることに気づいた。  これも失恋って言うのかな。  今更、なにも出来ないけれど。もっとはやく気づいていれば、あの笑顔が自分に向けられる可能性も少しはあったんだろうか。それとも結果は変わらずに、あの綺麗で無愛想な男は生意気で執念深い後輩を想うときだけ、優しく笑うのだろうか。  それでも、何も出来なくなってから気づくより、なにか出来るときなら、ちゃんと振られていたなら、私の気持ちももう少し行き場があったかもしれない。  遅れて知った曖昧で未消化な恋は余計にその人への未練を焦がす。 (あぁ、煮え切らない自分ほどうんざりするものもない)

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