テレパシー 2章10話

10話 思考

あらすじ
高校生になり、友達と部活動見学に向かった一信《かずのぶ》。弓道部に入ろうかと考えて、人だかりが無くなっても見学を続けていると優しげな部長から声をかけられ道具を見せてもらえることに。そこで遅れてやってきた三年生の先輩 高木(たかぎ)と出会う。
物憂げな表情で無口な高木は、冷たい印象を受けるが一信は次第に彼の優しさに気づいていく。弓を引く姿の美しさに惹かれ、高木自身へも惹かれていく一信。最初は困ったようにしていた高木も少しずつ心を開くようになり、明かされていく高木の危うさ。人間の醜さ、鬱屈を想いながらも、少年たちが愛とは何なのか考えていく物語。

【思考】  一信が俺の幸福を優先しようとする愛他的な感情と自分だけは特別でありたいという独善的な願望に揺れていることを理解した。  俺に足りないのは後者だろう。それは決して善い﹅﹅ものでは無かったが、人間として必要なもののはずだ。俺自身がそういうものを持たないのかそれともまだ知らないだけなのかはこの一生を終えてみないと分からないことだが、羨ましいとは思ったのだ。  それほどまでに、人を想えるということが。  今までは恋をする人間に薄ら寒いものすら感じていたが一信を見ているうちにそれは変わっていった。  告白をされるとその相手がどれほど必死でそれを言っているか知っているせいで、申し訳なくて息苦しくなっていたのに、一信が押し付けてくる愛情はそれほど俺の肺を締め上げなかった。少しずつ俺も変わっているのかもしれない。  けれども、  未だお前の情熱を理解し得ない  胡桃色くるみいろの瞳がその優れた知性をかなぐり捨てて 獣のような光を宿す時  好きに喰い殺してくれたなら  俺は考えるのを辞められただろうに  一信との感情に齟齬があることがわかった日から避けられることはなくなり、以前のように遊びに行くようになった。政にもざっくりとした話し合いの結果を伝えると「良かったな」と短い返答があった。『ちゃんと話が出来てよかったな』なのか『食い違いに気づけてよかったな』なのか、それとも『一信くんが良い子でよかったな』なのかは明言されなかったが、俺としては政に相談したことで面と向かって話す覚悟が出来たことが良かったと思った。  さて、あいつとは現状維持の関係が続いているが俺とてそれに甘んじているつもりはない。意味があるかは分からないがもう少し自分の感情に向き合ってみようと思う。  そも恋愛と友愛の違いはどこにあるのか。一般的には恋をするとこれが恋だと分かるらしい。そしてその相手を前にすると緊張したり空回ったりして思い通りの自分ではいられないとか。……そんな状態に陥ったことは一度もない。  また、好意のある人には触れたいと考え、恋人たちは様々なスキンシップを行う。これもまた俺には無い。触れられても不快感こそないが、自ら触れたいという感情は湧いてこない。そして一信が俺の血を流した姿に興奮を覚えたように(その例はいささか特殊かもしれないが)肉体的な快感がなくとも視覚的、心理的な情報から性的な興奮を覚えることもある、と。これも俺には理解し難い感覚だ。  肉体的快感があっても相手の軽薄な思考ゆえに興ざめすることならあったんだが、その逆となると想像もつかない。  残念ながら自分で考えても、やはり恋はしてないらしいという結論だけが浮き彫りになり思考は同じところをぐるぐると回り続けてしまう。仕方がない、やはり頃合いをみてまた相談してみよう。

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