羅刹の娘 第二章01

作品
01

※残酷な描写、性的な描写があります

あらすじ
人口の約30%が霊力を持ち、妖《あやかし》と呼ばれる人間とは異なる種族との共存が求められる社会。共存とは言うものの、霊力の少ない人間からすれば妖は脅威である。従ってそれらと対抗する術を学ぶための学校が存在する。──その中で名門校である土御門学園に所属する少年少女の物語。
本作は高校生編と中学生編で構成されている。
中学生編では、三幸が中学生の時に巻き込まれた事件から、生まれた時の話まで遡る。義妹、義母との確執、愚鈍な父、奸悪な祖父、誰一人味方とは言えない家の中で三幸が苛烈極まる精神を育てていく。
力はなく、美貌と話術のみを武器にする少女の、危うくもあり、どこか清々しくもある生き様を描きました。

   【中学生編】    【1】  「御角 三幸を紹介するよ」──友人に相談した返答がこれである。  ことの始まりは、俺が生徒会長になりたいと言ったこと。現在、生徒会に所属している俺達は、ろくに仕事をしない現生徒会長に対して苛立ちのようなものがあった。仕事を押し付けてくる割にこちらの話は聞かない。  それもこれも、生徒会長の選ばれかたに問題があった。他の生徒会メンバーは成績と授業態度等を考慮したうえで、教師に推薦してもらい入ることができる。けれども生徒会長になるためには、表向きは教師と現生徒会の推薦が必要という条件だったが、実際には家柄とクラスのランクがものを言った。  より伝統のある家、そしてSクラスの生徒であることが暗黙の了解だった。けれどもこの学園にいれば皆知っていることだが、Sクラスの生徒というのは才能に溢れてはいても人間性は持ち合わせていない者が多い。  俺の数少ない友人である四辻もSクラスであり、比較的マシな方ではあったが時折のぞくおよそ人間の情というものを忘れ去ったような表情には恐ろしさすら感じる。けれども、しかたないのかもしれない、とも思う。優れた能力は時に利用され、時にまったく身に覚えのないような不況を買う。自分の子供がS級の能力があると分かると、他の名のある家に養子に出すことすらあるときく。それだけ特異で、扱いづらい存在でもあった。  そうは言ってもこのままでは生徒会の質が下がるばかりだ。ならば、と俺が生徒会長に立候補し、四辻はそれに賛成してくれたが問題は教師が推薦してくれないことだった。  はじめに担任に頼んだが、困った顔で丁重に断られ、生徒会顧問に頼んだが、聞く耳すらもってはくれなかった。どうしたものかと思っていたところ、冒頭の言葉である。 「みかどみゆき? 誰だ? 何年生の人?」  まったく知らない名前が出てきたことに困惑しながら尋ねると、四辻は簡単な説明をする。 「今は中等部の三年だ。来年はここに入ってくることになる。僕のいとこに当たる子でね。彼女なら君を助けてくれるだろう」  高等部の問題を、中等部の子が助けてくれる? どの教師も取り合わないような問題を?  意味がわからなかった。わからなかったが、四辻には何か視えているのだろう。千里眼を持つ彼ならばこの先どうなるかも知っているのだろうから。 「分かった。日取りは四辻にまかせる。場所は……」 「生徒会室がいいんじゃないかな。他の人がいない日に」 「そうだな」  そうして、俺はよく分からないまま中学生の少女と会うことになった。    ***  西日の差し込む生徒会室──同席を頼んだ四辻は用事があると言ってさっさと帰ってしまい、俺は初対面の少女と二人きり、向い合わせで座っていた。 「はじめまして。高等部二年の青条せいじょう 孝二こうじです」  できるだけ普段通り喋ろうと思うが、どうにも声が固くなる。対する彼女は穏やかなほほえみを浮かべて返した。 「はじめまして。中等部三年の御角みかどと申します。千尋から簡単に話は聞いております」  小柄で、幼さの残る二つ年下の少女は高等部の生徒会室など居心地が良いはずがないのに弁柄色のソファに落ち着いた表情で腰掛けて、この場所に馴染んでいた。むしろ俺のほうがアウェイな気がしてくる。 「青条先輩は生徒会長になりたいそうですね」 「あぁ。けれど、俺はAクラス。前例がないと言われてしまって、説得を試みたが生徒会顧問に至っては話すら聞いてくれない状況だ。今の生徒会の現状を分かっているはずだが、まぁ、どうでもいいのだろう。考えあぐねて四辻に相談したところ、君を紹介されたんだ」  しかし、この少女にいったい何が出来るというのだろう。たしかに雰囲気は普通の生徒とは違う感じがする。けれど、いくら御角家が名家といえど、学園を創設した土御門家とは犬猿の仲、そう味方が多いとも思えない。 「生徒会顧問は、一宮先生でしたね」  彼女は笑顔で尋ねた。 「そうだ」  高等部の教師の名前を知っていたことに少し驚きながら頷くと、彼女は、こともなげに言った。 「では、あなたのお話を聞いてくださるよう、お願いしてきましょう」 「は?」  何を言われたのか一瞬理解できずにいると、彼女は立ち上がって。 「すぐに戻ります」  そう言うと、生徒会室を出ていった。  呆然と、俺は身動きもせず彼女が閉めた扉を見る。お願いしてきましょうと言ったか? お願い? まさかあの顧問に? 面識があるのだろうか。中等部の授業も担当しているのか? 可能性が無いわけではないが、あの捻くれた男が、コネだけで教師になったような男が、あんな少女を相手にするわけがない。  そう思っていたのに、五分と経たないうちに再び扉は開いた。  生徒会室の重い扉が、ギィと音を立てて開いたので俺はギョッとして。すぐにあの少女が顔をのぞかせた。 「来てくださいましたよ」  そう言って。  俺はわけが分からないまま目の前で面倒くさそうに座っている顧問に向かって必死に生徒会長になりたいこと、今の生徒会の現状、そして自分が生徒会につけばどう改善するのかを説明した。終始生返事をする顧問にだんだんと苛立ちがつのる。俺は声を大きくし、訴えかけるように話したが、男の表情は変わらず、となりで話を聞いている御角の方が熱心に聞いていた。  軽く息切れをしながら言いたいことを全部言い終わると、一宮はやっと終わったか、という顔でため息を付くと彼女の方をチラと見た。確かに見た。  そして彼女が微笑んだのを確認してから言ったのだ。 「分かった。相当やる気があるみたいだし、希望通り青条を生徒会長に推薦しよう」  あっさりと。 「ただ、推薦される生徒が一人とは限らない。他の推薦があった場合は職員会議で決まることになる。そうなったら諦めろ」  その発言に一抹の不安が戻ってくる。めんどくさいから取り敢えず推薦書だけ書いて、他のSクラスの生徒を推薦すれば無かったことに出来るのではなかろうか、と。この教師ならそのくらい平然とやるに違いない。なにせ奴からすれば面倒事はとにかく避けたいのだ。けれども、この後の御角の言葉によって一宮は顔色を変えた。 「私も来年は生徒会に入りたいと思っていますから、青条先輩のようなちゃんとした方が会長についてくださったら安心です。今までの生徒会長はあまり良い噂は聞かなかったものですから不安だったんです。もし私も生徒会に入れたら、一緒に頑張りましょうね。青条先輩」  柔和な微笑みだったが、それを聞いた一宮は目を見開いて御角を見た。 「み、みっ、みかども入るのか!?」 「えぇ。まだ推薦状の用意はありませんけれど、近くどなたかにお願いするつもりです」  一宮はあからさまに目を右へ左へと泳がせながら平静を装って「そうか」と頷いた。ますます不審に思うのは当たり前のことではないだろうか。四辻の紹介は確かに正しかったようだが、結局彼女がなにゆえ一宮を簡単に呼び出し、またここまで動揺させることが出来るのか分からない。  けれどもその場は、一宮は確かに推薦書を書きできる限り通るようにしてくれると約束し、話がまとまった。

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