救わぬ神より 救う化け物を愛す 02話

02話 神

【あらすじ】
貧しい村で生贄に捧げられた少女は、山奥の社に住んでいる神と出会う。神の滋養になるため食い殺されると思っていた少女だが、神は少女を気に入り側に置くことに。
次第に明かされる神の本性。果たしてそれは本当に神なのか、それとも……。

 十四歳になったばかりのその少女は、白無垢を着せられて、この村では一番の神輿に担がれて山奥へ向かう。神の社にたどり着くまでに、自殺をされては全てが無駄になるため、生贄になることが決まった娘は丁重に、言い換えるならば厳重に、扱われる。  何とかして死のうとする娘も少なくはないが、諦めて、呆然自失と最期を待つものも多い。今回の少女は、後者だったようである。一年早く、死にに行けと言われても、黙って頷いただけ、涙を流すこともせず、死のうと足掻くこともせず、静かに社へと運ばれた。  山奥を歩く途中、普通なら神輿の中からすすり泣く声が聞こえるものだが、それすらなくあまりにも静かだったため、実は死んでいるのではないかと心配する程だった。  社に付くと、神輿は降ろされ、娘がそろり、と足を出す。通常なら、この後、娘が出てきたら、村の代表者が神への口上を述べ、それが終われば娘を置いて全員帰り、その後で娘は社の中へ入る。という段取りになっている。けれども、今年は本当に異例の年だった。  白無垢の娘が立って、代表者が口上を述べようと口を開いたとき───社の中から、声がした。 『なんだ、やかましいな』  人間の声では無かった。決して大きな声では無いのに、地に響き渡るような、不可思議な音。村人は恐れ、口上など忘れて地に伏せた。そして震えながら、恐らくは『神』であるその者の次の言葉を待った。けれど、それは中々声を発さなかった。  恐る恐る、村人は顔を上げ、やはり声が無いのが分かると、混乱しながらも口上を言わねばと思ったのか、震える声で読み始めた。 「っ、お、お社に住まう、御神みかみ様、どうか、この娘を、お受け取り下さい。この娘は、十四になったばかりの娘で、こ、今年初潮をむかえたばかりの、娘でございます。例年であれば、もう一年先でございましたが、日照りが続いておりまして、どうか、御神様のお慈悲を賜りたく……───」 『なんだ? 生贄か? 誰がそんなことを頼んだ』 「は、え、み、御神様が、四年に一度、初潮を迎えたばかりの娘を花嫁として捧げるようにと、村では、言い伝えられておりまして……」 『ほぅ、そうか。それは上々、ならばその娘を置いて、さっさと失せろ』 「あ、ど、どうか村に、恵の雨を、降らせて下さいますよう、お願いもうしあげ───」  伏して、村人が言ったが、それは終わる前に遮られた。 『黙れ! 私に指図するか! 人間の分際で、わきまえろ!』 「も、申し訳ございません!!」 『良いから、さっさと消えろ! 己らも殺して喰ってやろうか!?』 「ひぃいぃ! すぐに、すぐに帰ります!」  村人たちはよろよろと走っていった。腰を抜かして、四つん這いになって逃げていく者や、泣きながら何度も転んで、ぼろぼろになっている者もいた。 『はははは! 愉快だ! 見ろ、あの滑稽な様!』  とても、神とは思えぬ言いようだった。  村人たちが見えなくなると、声は娘に向かって話しかけた。 『我が花嫁よ、社の中においで』  声に導かれるまま、少女は社の階段を上がる。扉はひとりでに開き、少女を迎え入れた。

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