05話 愛とか情とか
【あらすじ】
貧しい村で生贄に捧げられた少女は、山奥の社に住んでいる神と出会う。神の滋養になるため食い殺されると思っていた少女だが、神は少女を気に入り側に置くことに。
次第に明かされる神の本性。果たしてそれは本当に神なのか、それとも……。
神様の花嫁として捧げられて、殺されないまま穏やかな時が過ぎた。いくつもの季節が過ぎて、神様とは、共に眠るのが常となっていた。それは本当に眠るだけの時もあれば、そうでない時もあったのだけれど、神様は私と眠ると暖かくて良いのだと言っていた。確かに、神様はいつも体温が無かった。
「ぬくもりは感じるのに、不思議ですね」
『死体じゃないんだ。触れれば熱は伝わる。ヒトのそれよりは鈍いかもしれんがな』
「ふふ、私も、あなたと一緒に眠るの好きなんですよ」
『物好きだな』
神は皮肉を言いながら、けれども嬉しそうに笑っている。
「安心するんです。起きた時、あなたが隣にいると」
『ふん』
まんざらでもなさそうに、少し照れて、顔を反らす。
「そうだ。また新しいお着物をつくったんですよ。着てみてください」
季節に合わせた、美しい紅葉の刺繍がはいった着物。神は袖を通すと、その場でくるくると回って見せる。
「よくお似合いです」
『ふふふ、そうか。そうだな。良い柄だ』
「あの、実は、私もおそろいの柄で作ったんですが、見て下さいますか?」
『ほう』
すこし気恥ずかしい気持ちになりながらも、おずおずと着物を着る。
「いかがですか……?」
『よく、似合っている。美しいよ』
目を細めて、私を眺めるさまは、愛しい、と想われているのだと。もはや疑う余地もないほどに、優しかった。
季節は過ぎる。幾月と、幾年と重ねて、その日はやって来た。
私がここへきて、丁度四年が過ぎた頃───。
「御神様、捧げものと、花嫁にございます! どうぞお受け取り下さい」
私は十八になっていた。もう、本来であれば殺されている時分。
「どう、なさいますか?」
社の外にいる着飾られた幼い娘を眺めながら、私は尋ねた。今日ここで新しいものと変えるために殺されるのかもしれないと考えて、けれど、どこかで、自分が捨てられないことを確信していたようにも思う。わずかの不安があって、でも、すぐにそれは消え失せた。
『……追い返せ』
かけらも興味が無さそうに、神様は言ったから。
「村人たちは納得しないと思います」
『ったく、面倒くさいな』
神は、宙に弧を描き、いつものように何かを喚んだ。
『金鬼、風鬼、村人を帰らせてから、この手紙を長に渡せ。奴らの頭が悪いからと言って、殺したりするなよ』
「「かしこまりました」」
社の外に、人ならざる者が姿を現すと、村人は腰を抜かして恐れおののいたが、彼らに言いくるめられて、転げまわったり、這いずり、泣きながら村に帰っていった。
「なんのお手紙を渡したんですか?」
『新しい嫁はいらんと書いただけだ。そんなことをせずとも、私がいるだけで恩恵は与えてやる、ともな。これで奴らも、文句はあるまい』
「では、まだ私はお側にいて良いのですか?」
『……私が飽きるまでは、な』
相変わらず、そう言ったが、私が死ぬまで、飽きてくれないような気がした。
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