17話 手紙(エピローグ)
※小児加害など一部残酷な描写があります
あらすじ
近代ヨーロッパを舞台にした復讐劇。
ある事件により、車椅子での生活をおくることになった少女イネスは、その事件に関わった人間を探し出して自らの手で復讐することを願っている。唯一の味方である元奴隷のルイに協力してもらうが、なかなか犯人は見つからないまま、親の勧める実業家イーザック・フォーゲルの元へ嫁ぐことを決める
最初は互いに利害関係のみで成り立つ冷え切った夫婦関係だったが、ある出来事をきっかけに仲が深まり、やがて復讐へ協力してくれることになるが……。
【エピローグ 手紙】
「嬉しそうだね。何か良いことでも?」
「えぇ、ちょっとね」
舞踏会の大広間、煌々としたライトを避けてベランダで涼む美しい女性に、夫である男性が声をかける。
「足は痛まない? しんどかったらすぐに言うんだよ」
「大丈夫、そんなに激しい踊りはしていないもの。靴も、これすごくいいわ。足の負担がびっくりする程少ないのよ」
「あぁ、私の友人が考えた商品なんだが、そうか、それは後で礼を言っておこう」
「私も一緒にお礼を言いに行くわ。彼はとても話しやすい人だから好きよ」
明るく笑って、夜空を眺める妻に、彼は尋ねる。少し言葉を選ぶように、気づかいながら。
「いいこと、の内容を、聞いても良いかな」
「……手紙が届いたの。綺麗な字だったわ。名前は無かったけれど」
「そうか」
「それでね、お願いが一つあるの」
すこし申し訳なさそうに、上目づかいになるのは、彼女がおねだりをする時のクセだ。どうにも、彼はこれに弱かった。
「なんだい?」
「このまえ、アダルフォが、仕事を引き継げる人を探してるって、言ってたわよね。私、推薦したい人がいるのだけれど、ね、お試しで良いから、だめ?」
「……いいのかい? 私の仕事を手伝うということは、君とも仕事をすることになるだろう。傍に置くのは、辛くないか」
「あら、うふふ、あなたも案外、おバカさんねぇ」
本当に面白そうに、彼女は笑った。それは心底心配して、深刻な顔をしている夫と対照的だった。
「まさか、君……」
「うふ? まさか、何かしら?」
「……いや、よそう。君が、辛くないのなら、それでいいんだ。過去をむし返してまで、邪推する必要もない。君の推薦する人物を、楽しみに待っているよ」
「うん、ありがとう。イーザック」
『この手紙を送れたということは、きっとあなたは気づけたのね』
私が本当は、ただの一度もあなたを憎んだことなど無いということに。
あなたの死こそが、私を何よりも苦しめるということに。
「人生って大変な賭けごとよね!」
彼女の言に、イーザックの友人は酒を注ぎながら賛成した。
「さすが奥様、よく分かってらっしゃる。だからこそ、大変で、楽しくて、そしてやめられないのですよ!」
イーザックはいささか呆れながらも、笑っていた。
三人はグラスを掲げ、楽し気に───『私達の人生に乾杯!!』。
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