02話 恋人の人生
あらすじ
高校生になり、友達と部活動見学に向かった一信《かずのぶ》。弓道部に入ろうかと考えて、人だかりが無くなっても見学を続けていると優しげな部長から声をかけられ道具を見せてもらえることに。そこで遅れてやってきた三年生の先輩 高木(たかぎ)と出会う。
物憂げな表情で無口な高木は、冷たい印象を受けるが一信は次第に彼の優しさに気づいていく。弓を引く姿の美しさに惹かれ、高木自身へも惹かれていく一信。最初は困ったようにしていた高木も少しずつ心を開くようになり、明かされていく高木の危うさ。人間の醜さ、鬱屈を想いながらも、少年たちが愛とは何なのか考えていく物語。
【恋人の人生】
先輩がいつもの調子で、よく行く気に入りのカフェに誘ってくれたので、僕は「これからのことを話したい」と言われていたのも忘れひょいひょいと出ていった。
いつもの表情、いつもの声色、いつも通りの仕草で先輩はいつものカフェオレを頼んだ。僕はその日、珍しくいつものレモンティーではなく「同じものを」と言った。
おかげ様で次もまた「同じものを」というハメになるだろう。だって今日のカフェオレはちっとも味がしなかったのだから。
「俺の家族のことを少し話しておこうと思って」
そう切り出した先輩は今週の頭に父親に会いに行ったこと、そして昨日母親にも会ったことを説明した。
そこから、父親とは5年近く会っていなかったことや母親は精神病院に入院していて息子のことを認識出来ていない話をされた。ひどく穏やかな調子で一貫して語られる過去と現状に僕はあまりにも複雑な感情を抱いた。この人の父親が悪人でないことは分かっている。この人が憎んでいないことも。けれども親とは一体なんだろうかと思わずにはいられない。傷つけないために離れたのだと言った。それは正しいのかもしれない。でも、傷つけあっても守っていくのが親じゃないのか。憎まれても愛するのが親の姿ではないのか。……そう思うのは、僕が幼く、幸福であるが故だろうか。
金と愛は等価ではないだろう。あなたはなぜ、その父親を父親であると言えるのか。なぜそれほど穏やかに、ともすれば嬉しそうにその大人の話をするんですか。
僕はあなたのようには許せない。それでもあなた以上にそれを憎む権利などないんです。
だから母親が愛情深い人であって、そのためにおかしくなっていったのだと聞いたときもなんとかこらえていたけれど。
「母親は、俺を見ながら『私の息子はまだかしら』と考えていた」
あなたが死ぬほど優しい声で言うものだから。
「もう俺は、あの人に会ってもあの人を苦しめないかも知れないが……それは何かが、終わってしまったようで悲しかった」
そう言って、笑ったから。
僕は耐えられなくなって泣いてしまった。
あなたは優し過ぎる
許し過ぎる
確かにあなたの母よりも、父よりも、その心は強いのかもしれない。なぜならあなたは狂っていない。目を背けてもいない。でも、強い人ばかりが許さなければならない世の中を、僕は許すことが出来ないでしょう。
僕も、そのあなたに許された人間でありながら。
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