エベーヌの虚城 06話

06話 救済

※一部残酷な描写があります

あらすじ
怪我をして森で倒れていた少年ルカは、シスターエベーヌに拾われて傷を癒やしながら小さな森の中の家で他の12人の子供たちとともに暮らし始める。
中世ヨーロッパ、魔女狩りが過激化していた中で、不可思議な行動をするエベーヌと病弱な妹の存在。そしてある日、妹の治療のため家を空けることになったエベーヌ。寂しさで泣く子供たちの中でルカの狂気が目覚める!

【救済】  牢の中、尋問を受けるまでもなくその少年の処刑は決まっていた。  悪魔の力を借りて育ての親と兄弟十一人を殺した罪。  少年は罪状や当時の状況について聞かれても呆然として時折首を縦に振った。他の生き残りが居ないならば同胞について口を割らせる必要もないと判断し、これ以上生かしていても、いつ悪魔が暴れ出すか分からないから、と教会はすぐに火刑の用意を始めていた。  このところ魔女裁判は頻繁に行われており処刑人たちも慣れてしまって、それほど時間を要さずして少年は十字架にはりつけられ、罪状を述べられた後、足元の木々に火がつけられた。  轟々とよく燃えて、しだい、火が上がり少年の足をじりじりと焼きはじめる。  あわれな少年は火刑を見に来た民衆の前で叫んだ。 『かあさん! かあさん‼ たすけて‼』  大量殺人を犯したとは思えない、まだあどけなさの残る少年の泣き叫ぶ姿はあまりに哀れだった。ほんとうにあんな子どもが人を殺したのかと疑うものもいただろう。けれども誰も止めることが出来ないと思った時。  ひとつの怒号が響いた。 「死体が消えた‼ 家も無くなっている‼」  ざわざわと人々が騒ぎ出す。処刑人や異端審問官たちもどよめいて何がどう伝わったのか、彼らは大慌てで勢いよく燃える火を消し始めた。 「どういうことだ!」 「教会が間違えたのか!」  民衆から怒りの声が上がったが、その場に居た女達は夫が教会を責めるのを叱り飛ばした。あの可哀想な子どもが助かるなら、間違いであったほうが良いと多くの母親がおもったからだった。  すぐに教会からは声明が発表される。それは少年の他に力を持った魔女または悪魔がいる可能性が高いため火刑を中止し、新たに裁判をやり直すというものだった。  少年は教会の医療施設へ送られて両足の火傷が治ったら再び異端審問を行うと言い渡された。しかしこれはほとんど便宜上のもので、実際に行われる予定はなかった。  なぜなら、少年は当初の審問からほとんど他人を認識できずときおりうなずいては「かあさん」とうわ言のようにいう限りであったためほかの魔女について聞き出すことも、少年自身が本当に殺人を犯したのかさえ確かめることが出来ない状態だったからだ。  教会はあとかたもなく消えた家の財産を徴収することも出来ず、少年の存在は救護院に葬り去ってしまった。残ったのは、観衆の母親たちの耳に響く「かあさん」という言葉だけである。 「あぁ……もう死んでも良いだろう」  少年の枕元で低く冷たい女の声がした 「足が、腐ってしまっているわ」  聞き覚えのある少女の声もした 「か あ さ ん」  答える声はない  救い主は 俺が殺した  全ての罪を背負い十字架とともに燃やされた 美しい魔女よ  あわれな罪人を どうか許さないで

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